ハセツネへの道 その4−3 本番当日(浅間峠<第1関門> → 月夜見山第2駐車場<第2関門>)


第1関門の浅間峠から三頭山にかけてのルートは先日試走した区間だったが、一つ大きく異なってたのが、その走る時間帯だった。浅間峠を過ぎた辺りから暗さを感じ始め、それでもまだ木立の隙間から差し込んでくる夕日が前方を照らしてくれていたが、土俵岳を登りきった後の下りから急に前方が見えなくなる。登りはゆっくりと歩いているのでそこまで感じなかったのだが、下りでスピードが出始めると急に目の前が見えなくなった。
後から思ったが、経験者は浅間峠で止まらずにそのまま土俵岳まで行き、登りきったところでライトを準備していたような気もする。自分は何も分からず止まらずに突っ込んでいくものの、急に前が見えなくなって慌てて止まり、ライトの準備。初めてのライト走行を開始。


この時点で17:15。


そもそもは、アドベンチャー用に買ったBlack Diamondのヘッドランプ1つで行こうとしていたが、たまたま友人がトレイル用の靴を買いにいくのに付き合ったときに、ついでに寄ったサカイヤで店員に「ヘッドランプ1つで十分ですかね?」と聞いた際、「手持ちライトも1つあったほうが安心でいい」といわれ、マグライトを購入。ついでに手持ち用のバンドを改造して取り付ける方法も聞き、用意してきた。このマグライトが、相当効いた。

これも人によるのかもしれないけども、自分の場合はヘッドライトは弱の光量でなんとなく前方を照らしつつ、すぐ前の自分が進む先をマグライトで照らし、走った。ヘッドライト一つでは照らしたいエリアを十分カバーできず、また光の強さも十分ではなかった(これは光を強くすればよかったのかもしれないけど)。マグライトの強力な光のお陰で、前方の視界確保が出来た。
ただし、のぼりは逆にマグライトは必要ないので、ヘッドライトのみで進みつつ、両手は体を上に登らせていくために使う(そのお陰で何度と無くライトを落としてしまった。やはりポケットに入れているのがあまりよく無かったらしく、これは次回への課題)。マグライトは途中電池を1回交換したが、ヘッドランプは特に交換せずゴールまで行った、というか一度交換しようとしたのだけれども、電池カバーが開かず(!?)、諦めたんだけど。


この区間、地図を見れば分かるが基本的に登りが続く。緩かったり急だったりするんだけど、結構きつかった。頭が朦朧とする中で勝手に緩やかなアップダウンが続くと勘違いしてたりし、そうじゃない状況に勝手に落ち込んだり。

今回学んだことの一つの大きな成果は、登りの登り方。これはあくまでも個人的なものだし、速い人はもっとスピード出していくんだと思うけど、今回この区間で、自分なりの登り方をみつけた。

1.登りは、つま先ではなくかかとで登る
2.ふくらはぎではなくお尻の筋肉(大臀筋)で登る
3.姿勢は前傾よりは立てて登る
4.心拍数を上げない

1と2はサカイヤで靴を買ったときに教わった。結局小さな筋肉ではなく大きな筋肉を使いましょう、と言うことなのかなと勝手に解釈したが、かかととお尻とを結ぶ線を地面に対して垂直に立てる感覚で登ると、あまりふくらはぎへの負担も無く、逆に大臀筋にはくるのだけれども、そこまで大きな影響(例えば「つったり」とか)は無い。これに関連して、背筋も出来るだけ立てるほうが、大臀筋からかかとへの力が伝わりやすいような気がする。おまけに腰もそんなに痛くならないし。そして心拍数。これがあがると全てがきつくなる。無理して早く登ろうとすると、心拍数もあがるし、おまけにフォームも壊れてくるし悪循環。結果的には落ち着いて登った方が速い。これは岩場での登りだけではなく、緩やかなのぼり斜面でも同じで、この走法で後半の大岳山以降は、凄い遅い速度だけれども、ほとんどを走りで進めた。


しかしここで水が無くなった。


今回のために、ハイドレーションは2リットルのものを購入し、おまけにアミノバリュー500mlを2本、かばんの両脇に収めて走ってたのだが、西原峠に行く前に尽きてしまう。おまけにハイドレーショ内の水も西原峠を過ぎた辺りで尽きてしまった。これはきっと、飲みすぎなんだと思うんだけど、あの追い込まれた状況下では、どうしても「今、水が飲みたい」となってしまう。
おまけにこのハセツネでは、給水ポイントがスタートから42キロ行った第2関門まで無い!
これは事前に分かっていたことで、それで多めに水を用意したつもりなんだけど、それでも三頭山前で尽きてしまったのはきつかった。水を飲まないようにするべきなのか、もう少し持っていくべきなのか、その辺りはよく分からないのだが(多分前者なのかもしれないが、果たしてそれが自分に出来るのかがわからない)、とにかくこの後が、今回のレースの中で一番きつかった。


この区間は「まだ半分も行ってない」という段階だったので、なかなか精神的にもきつい。なんせ、自分自身が盛り上がってこない。おまけに水も無い。定期的に補給しようと決めていたものを取るのさえ面倒くさいし、水も無いのにアミノバイタルは飲みずらいし、とかどんどんネガティブに。ほんと精神的にも悪循環。ちょっとした違和感(足がかゆいとか背中が重いとか)が凄く気になる最悪な状況。もうよく分からないけれど、何とかしなければと思って、おにぎり食べてみたり、パワーバーを食べてみたり。少しでもよくなるのであればなんでもしてやる、という神頼みの世界。

時間的には5時間を過ぎ、試走したはずのコースなんだけど、ここから先の道のりがどうなっているのか、全然頭に浮かんでこない。道中いろんな山の名前や峠の標識が出てくるのだが、それがいったいどの辺りなのかもわからず。まあ一回試走した位じゃ無理だろうが、試走なのだからむしろそういう部分をきちんと意識して走るべきだったなと反省。試走といっても単にそのエリアを走ってただけなんで。おまけに西原峠に三頭山の避難小屋があると勝手に勘違いし、それが全然現れずに精神的に勝手に参ってしまったり。

西原峠で少し座って補給をし、水の残量を確かめて、ハイドレーションのパックを取り出してわずかな水を全て飲み干す。これで完全に水が無くなった。ここから先の第2関門までの11キロどうするかを考える余裕は全く無し。槇寄山、大沢山を経て三頭山を目指す。

ここまでは何とかだましだましで走り続けてきたが、槇寄山、そして大沢山の登りでとうとう力が尽きる。何度と無く止まってしまい、座り込んだりあるいは木にもたれかかって、ボーっとする。呼吸が厳しいわけじゃないのだけれども、本気で体が動かない。途中まではパワージェルをガンガン注入して、それで無理やり動かしていたが、なぜか気持ちが前へ進まない。
これも今回学んだのだが、というかもしかしたら当たり前なんだろうけど、やはり何よりも気持ちが大事なんだなー、と思った。うまく言葉で説明できないんだけど、この前に進めない理由と言うのは、どうも論理的な理由があるわけでもなく。先の見えないつらさというか、水の無い心細さと言うか、複合的に色々と混ざってるのだろう。本気でこのまま竹やぶのなかに突っ込んで眠りたいとか思ったり(マジで)。
下りはもちろん、上りもすさまじく遅いペースでいたので、ドンドン抜かれていく。
今回のレースでここが一番きつかった。


それでもなんとか転がり込むように三頭山山頂へ到着。この辺りは、正直全く記憶に無い。全てが飛んでしまっていて、とにかくたどり着いたって感じ。


でも、これも不思議で、三頭山山頂で寒い中、気を失うように一瞬ベンチで横になって落ちたあと(時簡にして10分くらい?)、寒さで目が覚め、そして何故だか一気に元気が出てくる。まったく人間の体、というか頭の中は不思議だらけで、何でこうなるのか、全く分かれない。なので語れない。


防寒具らしきものは、モンベルの雨具(上着のみ)しかなかったのだが、この時間帯はまだ十分だった。さすがに止まってるとそれでも寒いのだが、走っていると暑くなるくらいで。これがもう少し薄手の軽量ウィンドブレーカーみたいなものだったらどうだったのかは分からないが。ただ、これで雨が降っていたら相当寒かったかも。この辺りのギアはよく分からないので今後は要検討。

三頭山からの下りはひたすら駆け抜ける。コレがまた結構あったような気がするけど、もうこの時点では、水が欲しい一心でひたすら前へ前へ。それでも三頭山山頂から第2関門までの5キロを1時間強かかっていたようなので、やはりペースはだいぶ落ちていたみたいで。ただ、半分は過ぎたんだという喜びも手伝ってか、精神的にはかなり上向いてきた。膝の違和感とかはずっとあったんだけれども、走れないほどの痛さではなかった。そうしたフィジカル面での安心感もあったのかもしれない。これもギア類のお陰だろうか。


21:14に第2関門である月夜見山第2駐車場へ到着。この時点で順位は437位で、120位近く下がっていたらしい。まあ、むしろ120位で済んでよかったのかもしれない。それくらい、三頭山までが辛かった。

念願の水を1.5リットルもらい、ガブガブ飲んで残りをハイドレーションへ。止まっていると上着を着てても寒く、関節痛も激しさを増すので、補給をしてトイレによって、すぐに出発。


(続く)